もし「大学時代で一番印象に残っていることは?」と言われるとしたら困ってしまいます。
実にゆっくりと楽しい時間が流れました。仲間と笑い合う、語り合う、励まし合う、ふざけ合う、叫び合う、そして喜び合う…。独りで歩く、見る、考える、思う、そして、感じる…。あの日々がすべて、たった4年間に起こったのだと思うと、不思議な気持ちになるのです。
あえてベストシーンを挙げるならば、サークル仲間との沖縄旅行でしょうか。石垣島の米原キャンプ場で見た朝日は忘れられません。真夜中、テントの中に蚊が入りこんできて、あまりにもかゆかったので寝るのを諦め、浜辺に出て座りました。真夏ですから、まだ薄暗い時間帯こそちょうどいい気温です。心地よいそよ風の中に身を置き、目覚めていく太陽の光にじわじわとさらされていく中で、『いま生きている』という事実を、圧倒的な幸せとして受け取れたような気がしました。
また、東京-長崎間を寝袋片手に野宿をしながら、ひとり歩き旅をしたときに見た有明海の朝霧も圧巻でした。佐賀の鹿島市だったでしょうか。真夜中、公園のベンチで横になりましたが寒過ぎたので寝付けず、諦めて歩き続けることにしたのです。かなり歩いて、あたりが少しずつ明るくなってきたころ、ふと見上げると、三脚をたてて写真を撮っている人がいました。その人がカメラを向ける先に目を移すと…。そこには、朝日に照らされた霧の中にのびる土手の上を人が散歩する姿。あたかも雲の上を歩いているように見え、幻想的な世界が作り出されていました。私もしばらく立ち尽くしてそのおとぎ話のような光景に目を奪われていました。そのとき、私はこれを見るために40日間も歩いてきたのだと確信したのでした。
どちらも素晴らしい思い出です。こういった機会を得たことも、充分に時間が取れる学生時代の良さなのかもしれません。
受験生だった頃、プレッシャーと不安な気持ちに押し潰されそうになって、不眠症気味になったことがありました。無理にでも寝ようとして苦しんだことを覚えています。生活のリズムを保ちたいのに「なんで寝付けないんだ」と。それが皮肉なことに、大学生になって旅の途中であっさり「寝ることを諦めた」ときに、素晴らしい場面に出会っている…。
この「諦める」ことができる心の余裕こそが、大学生活の醍醐味であり、かけがえのないところかもしれません。また頑張った先でこそ味わえる境地とも言えるのでしょう、きっと。